漆百科  山本勝巳

漆百科

このブログを読んでくださる方は、きっと漆に興味がおありの方だと思うので、ちょっと専門的な本もご紹介。これは私が、漆器の勉強をするならと、金継ぎの先生からおすすめして頂いた本である。

その名も『漆百科』(山本勝巳 著 丸善出版株式会社 平成20年5月30日発行)なにやら装丁もおごそかなので、難しい本だと思ってしまいそうだけれど、そんなことはないので読んでみてほしい。

漆の本といえば、だいたいが金継ぎだったり漆塗りの方法の本、漆のうつわの使い方だろう。しかしこれは、世界や日本の漆の歴史はもちろんのこと、日本の「漆産業」の歴史がこと細かに記してあり、その名の通り 百科、知識の本。自分の興味がある頁から読んでください、と書かれているので目次を見ながら気軽に読めるのも嬉しい。

漆の産業というのは、○○塗 ○○塗という各地方の伝統工芸品だけではなく「合成漆器」も含む。合成漆器というのは、合成樹脂の素材や塗料を使用した製品のこと。例をあげると電子レンジや食器洗浄機対応のお椀。持ってみると軽く、プラスチック製のような風合いといえば分かりやすいかもしれない。

化学技術の発達と生活の洋式化に伴って、そのシェアも増え、今や本漆を使っていないものも漆製品の一部として扱われるという、不思議な図式の漆業界。家庭用品品質表示法の漆器のページを見て、表示例から、その一端がうかがえる。

消費者庁 家庭用品品質表示法ページより引用

塗装:カシュー塗料 素地: ポリプロピレンとある。漆を使ってないのに合成漆器??といささか混乱を覚える。また塗料・素地の組み合わせにも様々あるため、正確に表示しなければならない。どうしてこうなったのかという歴史や経緯も興味深い。

合成漆器は今や多くのシェアを誇るのに、ともすれば、安価な製品の台頭によって伝統工芸が失われつつあるという印象を与えかねない。著者は、その技術はすばらしいのに天然材料の代替品として扱われてしまっている、否定するのではなくうまく共存すべきであると言う。伝統工芸と化学技術の両方を俯瞰で見ることができるのは、社団法人化学経済研究所にて化学産業の研究をして来られたと知り、納得。

実際に、美しさは保ちながら食洗機にかけられる、など、便利で素敵な製品がたくさんある。漆器に限らず、今の消費者に受け入れられている工芸品は、そうやって使う人の門戸を広げて進化してきたはず。良い面悪い面を補い合って産業として盛り上がっていけばいいのだろうな。

先に紹介した本「うつわを食らう」も、本書の中で知った。日頃、書店ではなかなか見かけなくても、数珠つなぎで良書に巡り合うこともまた教えてもらった。

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