桜も終わり、もう五月。桜は三月の頭から待ち焦がれるのに、それが終わると夏の気温とか、ゴールデンウイークの話題で、青葉の季節を飛ばしているような気さえする。
今日は久しぶりに来た街を駅に向かって歩いていた。住宅街を抜けると最後は数百メートル、駅まで一本道をいくことになる。細い横道からスッとその通りに出た瞬間、ふわっと青葉の香りを風が運んできた。
薫風が耳元を抜ける。そこはもう春じゃなかった。
駅までの道は左側が日陰の住宅や商店で、右側が大きな施設の敷地。木々が生い茂り、駅までの道すがらその借景にあずかることができる。私は、迷わず横断歩道を渡っていた。
いつのまにか春が終わっていた。
黄色がかった萌黄色に秋のイチョウの面影をわずかに感じるけれど、まぎれもなく初夏の色。
午後だったからか、少し柔らかい光が差しこみ
石壁を落ちる水に映る、木漏れ日の光を追う、なんとも難しい撮影に夢中になる。
リスの置物に驚かされたり、なごんだり。
歩き疲れてしばし休憩しつつ。
筍が伸びて竹になるのだと改めて実感する。竹の成長スピードって一日に何十㎝も伸びるほどだそう。
風薫る、薫風に似た言葉に薫陶という言葉がある。説明がこの本に載っていたなあと、帰宅して本を取り出した。
薫陶 心までしみこむ香り
もともとは、香をたいて香りをしみこませ、粘土をこね、形をととのえて陶器を作るという意味でした。
やがて香りがしみこむように、自然に、その人の徳によって教えが身についていくことを薫陶というようになりました。
美人の日本語 山下景子著 幻冬舎文庫
こちらの本は毎日、一つ美しい日本語を教えてくれる本で、偶然にも薫陶は 5月3日、今日の言葉だった。
ふわっと香る新緑の香りと、作陶、それから優れた人からの教えが身につくという意味。異なるものなのに、なんだかみずみずしい美しい糸でつながれている気がして、うれしくなった。
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